多様な技術やスキルを活用し、人々の支えになるロボットをつくりたい―髙畑 智之

原田・髙畑・長・椋田研究室の研究者紹介 第3回は、人の生活を助けるロボットの研究を手がける髙畑 智之(たかはた ともゆき)先生です。これまでの歩みや研究への思いを語ってもらいました。

これまでのこと

研究テーマとの出会い

ロボットに対する興味が生まれたのは、幼稚園の頃のことでした。アニメ『トランスフォーマー』でガシャンガシャンと “変形する” ロボットを目にし、強い印象を受けたことを覚えています。
その後、アメリカのSFテレビドラマ『新スタートレック』でアンドロイドが自我に苦悩する様子を見てロボットや知能に改めて興味を持ち、大学でロボットの研究をすることを志すようになりました。

また、大学1年生の頃に「電磁気学」の授業で光の進み方を表す式と出会ったことも、研究テーマに大きな影響を与えています。
光が単に矢印のように真っ直ぐ飛んでいくのではなく、電気と磁気が互いに影響を及ぼし合いながら進んでいく、その数式の対称性の美しさに惹かれ、今もレンズやカメラを扱う研究に取り組んでいます。

研究者としてのあゆみ

大学4年生でマイクロマシン(超小型機械)の研究室に入り、博士課程を修了するまでの6年間は光学にまつわる研究に携わりました。
当時扱っていたのは、昆虫の目のようにいくつものレンズが曲面上に貼りついた小型のレンズである「マイクロレンズ」や、ノコギリのようにギザギザした断面をもつ「フレネルレンズ」などです。

ロボットの研究をするようになったのは、博士課程を修了した後に始まった ひとつのプロジェクトがきっかけでした。

学科全体から多様な研究テーマを持つ研究者が集まるプロジェクトで、1台の椅子型ロボットに各研究室の研究成果をのせてデモンストレーションを行うことに。ここで「ロボットの研究をしたことがないのなら、やってみなさい」とお話をいただいたことを機に、初めて大きなサイズの移動する機械を扱うことになったのです。

▲ユーザーの手招きを認識して近づく、椅子型ロボット

2年ほどかけてこのプロジェクトを終えた後には、新たに「電動車椅子の研究をやらないか」とお声がけいただき、以来10年以上にわたってロボットの研究に携わり続けています。

またこのプロジェクトでロボットを扱ったことで、マイクロマシンのような “要素” や “部品” を突き詰めることに加えて “システム全体” をつくりたい、性能の高さだけではなく実用性を主眼としたものづくりがしたいと思うようになって。そこからは、ロボットの研究と並行してカメラをつくることに取り組んできました。

“今”のこと

取り組んでいる研究

現在は、人の生活を支援するロボットをつくることを大きなテーマとして、主に「乗りもの」と「カメラ」の2軸で研究を行っています。

乗りものの研究では、車椅子を使われている方が介助なしで移動できる範囲を広げることをめざし、エスカレーターに乗れる・段差が乗り越えられる・斜面でもスムーズに移動ができる車椅子「搭乗型モビリティロボット」をつくることに取り組んできました。

▲搭乗型モビリティロボットが高さ340 mmの段差を昇降できることを実験で示した

またカメラの研究では、従来のカメラでは難しかった「透明なガラスの存在の認識」ができるカメラをつくり、ロボットに周囲の環境を正しく把握させることを主な課題として取り組んでいます。

▲「ガラスの存在を認識できるカメラ」でテスト撮影を行う

コンセプトを立てるところから、メカニズムの設計、実際に乗りものを動かしたり画像処理を行ったりするためのソフトウェアづくりまで、ハード・ソフトを問わず幅広く手がけているのがわたしの研究の特徴です。

研究に対するこだわり

研究というのは、ある既存の成果に新たな観点を付け加えて積み重ねていくものではありますが、その中でも “新しい価値をつくり出すこと” にこだわりたいといつも意識しています。

例えばエスカレーターに乗れる車椅子をつくるために、従来の車椅子にマイナーチェンジを加えるのではなく、車輪を動かすメカニズムの部分から新たに設計を行ったことも、やはりこれまでに見たこともないような新しいものをつくりたいという思いが起点になっていたと思います。

また、そういった新しいものをつくるにあたって必要な知識やスキルを積極的に身につけ、“最後まで自分でやってみること” もこだわりの一つです。

レンズの研究をしていたところから、レンズを使ってカメラをつくり画像を撮影することにも挑戦したり、さらに撮影した画像から意味のある情報を取り出す「画像処理」も行うようになったり……。そうして少しずつ研究の幅を広げてきたように、これからも “ここは自分の専門領域外だから” と線引きすることなく、スキルの獲得に挑戦し続けていきたいなと思っています。

これからのこと

研究者として、挑戦したいこと

人が生活する中で何かに困ったとき、ロボットがそれを見つけて解決するための機械をつくり出す。そんな生活支援のあり方をめざして、研究面では “発明” ができるAIをつくることに挑戦したいと思っています。

研究者としては基本的に自分のやりたいことをやってきた感覚で、これからもそうでありたいなと。そして、そんなやりたいことができる環境をつくるためにも、新しいものをつくり出す努力を続けていきたいなと思います。

未来の研究者へ

できると思っていなかったようなことでも、自分のやりたいことを認識してその方向に進んでいくよう努力をしてみることで、道が開けるのではないかと思っています。

わたし自身、研究室への配属を受けて一度は「大学でロボットの研究がしたい」という思いは忘れ、マイクロマシンという小さな世界に入ることになりましたが……それでも “ロボット” は自分の興味ややりたいこととして意識し続けていて。
椅子型ロボットのお話をいただいたときには、自分の興味に近いものだから頑張って勉強してやってみよう、と誰よりも熱心に取り組んだと思っています。結果として、今では電動車椅子のような自分のやりたかった研究分野に携われるようになりましたから。

ぜひ、自分の好きなものは何か、興味があるものは何かをよく考えて、心の赴くままに研究をしてみてください。

取材・文・写真=原田・髙畑・長・椋田研究室広報担当