人間の仲間になるような賢い知能をつくり出すために―椋田 悠介

原田・髙畑・長・椋田研究室の研究者紹介 第2回は、AIによる認識を支える「特徴抽出」の研究を手がける椋田 悠介(むくた ゆうすけ)先生です。これまでの歩みや研究への思いを語ってもらいました。

これまでのこと

研究テーマとの出会い

何か特別なきっかけがあった訳ではありませんが、高校生くらいの頃からAIへの漠然とした興味がありました。AIってかっこいいな、人間の仲間になるような賢い知能をつくって一緒に切磋琢磨できたらいいな、という思いをずっと持ち続けていたことを覚えています。

研究者としてのあゆみ

初めはロボットをつくることを志し、東京大学 工学部機械情報工学科に進学。ロボットの体をつくる機械系のテーマと、脳みそにあたる部分をつくる情報系のテーマをそれぞれ学ぶところから、専門的な勉強がスタートしました。

その後は情報系の道へ進み、修士課程ではAIが少ない情報からでも勘を働かせられるように、時系列間の因果関係を明らかにできるアルゴリズムづくりを。博士課程では、現在も取り組んでいる「特徴抽出」をテーマとした研究を手がけてきました。

特徴抽出とは、AIがデータを認識しやすいように、データの中から認識に役立つ特徴を取り出す処理のことを言います。

▲例えばAIによる画像認識では、画像のデータから “りんごらしさ” をよく捉えた特徴を抽出し、「画像に写っているのはりんごだろう」と推測するのに役立てている

博士課程での研究テーマは、取り出した特徴をすべて使うのではなくランダムに間引き、すばやく大ざっぱな認識をさせるモデルをつくること。
画像を見てそれが何かを認識するのに丸1日かかってしまっては、便利とは言えませんよね。そこで「こうすればオリジナルな結果をあまり損なわずにスピーディな認識ができる」と説明できる形で、認識の性能を高めようと取り組んでいたのです。

このように、“なんとなく” や “偶然” ではなく「計算の結果、こうすれば上手くいく」と説明がつき、自分も納得できる方法で知能をつくりたいという思いは、今でも変わらずわたしの研究の軸になっています。

“今”のこと

取り組んでいる研究

「画像を反転させたり回転させたりしたときに、写っているものは変わらないのにAIが “別のものだ” と認識したら不便だ」という感覚を出発点として、反転・回転のような変換の影響を消した状態で特徴を取り出せるモデルをつくろうと取り組んでいます。

▲機械学習のイメージ

少し抽象的にお話しすると……例えば、線を引いて一方をりんご、もう一方をみかんだと認識するとして。線のあり方を人間が制約として与え、その制約のもとで「どのように線を引くか」をAIが画像データから学びとる、というのが機械学習の基本的な流れです。

ここで「画像に加えられた変換の影響を消すには、どのような形の線を引くとよいのか」という制約を計算から求めて与えることが、わたしの今の研究内容だというイメージです。

研究に対するこだわり

理論や計算をもとに「こんなモデルにすれば上手くいく」と導くだけでなく、導いたモデルを実装して画像を認識させ、「本当に思っていた性能が実現されているか」を実際に確認することを大切にしています。

ただ、その中でもできるだけ実験に対する依存性を減らすことが、わたしのこだわりですね。

130万枚ほどの画像が集められたデータセットを使って実験を行うには1〜2週間ほどの時間がかかってしまいますし、根拠なく闇雲に実験を重ねていると、偶然うまくいったものを「それが適した形だ」と思い込んでしまいかねませんから。

実験を行う前に式を立ててある程度うまくいく目処をつけ、自分がしっかりと納得した上で進んでいきたいと思っています。

これからのこと

研究者として、挑戦したいこと

研究面では特徴抽出というテーマの中で、データに対する幅広い予備知識を考慮した認識を行うことに挑戦したいですね。

研究者としての将来についてはあまり考えてはいませんが……AIの進歩に付いていけるように、自分も成長していかなければと思っています。

未来の研究者へ

AIの研究は、世の中の役に立つ上に知的好奇心も満たされる、楽しい分野です。一緒に賢い知能システムをつくってみませんか?

 

取材・文・写真=原田・髙畑・長・椋田研究室広報担当