誰かの命を救えるような “ものづくり” で、医療に貢献し続けたい―黒瀬 優介

原田・髙畑・長・椋田研究室の研究者紹介 第4回は、医用画像を用いて病気の診断を行うAIの研究を手がける、黒瀬 優介(くろせ ゆうすけ)先生です。これまでの歩みや研究への思いを語ってもらいました。

これまでのこと

研究テーマとの出会い

幼い頃から戦隊もののロボットや電子機器など 機械に触れるのが好きだったことから、大学では工学系の道に進み、ロボットや航空系などさまざまな領域に興味を持って学んでいて。そうした中、ある授業で “手術ロボット” の話を耳にしたことが、研究テーマを決める大きなきっかけになりました。

アメリカで内視鏡手術支援ロボット「da Vinci(ダ・ヴィンチ)」が開発されて世界に広まり、日本の病院でも導入が始まった……そんな概要を知り、世界中で多くの方に使われ役に立つ分野がある、ということにとても感動したのを覚えています。

この授業を機に、自分が手術ロボットをひとつでも開発して大量生産につなげることができたなら、医師として患者さんと直接関わるのではない自分の立場からでも、医療に貢献して多くの命を救えるかもしれないと思うように。そこから手術ロボットの研究を志すようになりました。

この手術ロボットの研究が、現在の「医療×AI」という研究テーマにたどり着く、最初の一歩になっています。

研究者としてのあゆみ

手術ロボットの研究室に進み、まずは微細な血管のバイパス手術(詰まってしまった血管に迂回路をつくりスムーズな血流を取り戻す手術)を支援するロボットの活用や改善に携わることから研究の世界に入りました。

最初に手がけた研究テーマは、「ロボットが “自分で考えて” 医師を支援できるようにする」というものです。
手術ロボットを扱う医師は患者さんから離れたところで、ロボットの目を通して見た情報だけを頼りに作業を行わなければいけません。そうした難しい手術をサポートするには、医師の操作どおりに動くだけでなく、自発的に補助ができるロボットが必要だと考えたのです。

そこから、補助の前提としてロボットが手術環境を正しく把握できるように、ロボットに血管の位置や血流の向きなどを認識させる研究に取り組みました。

修士〜博士課程の5年半この研究に携わりましたが、次第に、ロボット自身が考えて補助を行う状態を実現するには、環境の認識をはじめとしたロボットの “脳” の研究をさらに深める必要があると感じるようになって。
博士課程修了後は、手術ロボットというハードに関わる研究を離れ、現在までAIを中心にロボットの “脳” により特化した研究に取り組んでいます。

“今”のこと

取り組んでいる研究

▲病気の診断を支援するAIのイメージ

医師による病気の診断をサポートするために、「病理画像(組織や細胞を顕微鏡で観察したもの)や内視鏡画像、放射線画像などの医用画像を用いて病気の診断を行うAI」を開発することを研究テーマとしています。

現在取り組んでいるものの一つが、がんの診断を確定するために患者さんの組織や細胞を顕微鏡で観察し診断を行う「病理診断」を支援するAIです。

がんの見落としや過剰な診断が発生することのないよう、病理診断では原則ダブルチェックを行うことが求められます。しかし日本では病理医が足りないと言われ、病理医が1名のみの病院では他の病院にチェックを依頼しなければいけないのが現状です。

そうした中、病理画像を認識して高い精度で「がんか否か」の診断ができるAIが実現すれば、病理診断のダブルチェックの一端を担うことができるだろうと。これによって、病理医や診断を待つ患者さんの負担を減らしたいという思いで、研究を進めています。

研究に対するこだわり

研究を進める中で大切にしているのは、独りよがりのものづくりをしないことです。

こちらに何かをつくり出した満足感があったとしても、現場で実際に使われ、医師の役に立つものでなければ意味がありませんから。「どのようなデータを提供いただくか」「解析結果をふまえ、どのように改善していくか」など、さまざまな場面で医師の方々とコミュニケーションをとり、現場のニーズや課題を汲み取っていくことがとても重要になります。

医学的・工学的な知見を互いに持ち寄って議論を重ね、よりよいものにブラッシュアップしていくことには、これからもこだわり続けていきたいなと思っています。

これからのこと

研究者として、挑戦したいこと

まずは今取り組んでいる診断支援AIのブラッシュアップを重ね、ひとつのAIで診断できる病気の幅を広げるなど、より医療現場で役立つものにしていくことが目標です。

またその先で、人間が与えた情報に沿って診断を行うだけでなく、希少疾患やまだ解明されていない病気についても「この辺りに異常がある」と推測できるようになったり。さらに、人間がまだ気づいていない診断方法やその根拠をフィードバックするなど、新たな医学的知見を見出すことに貢献したりと、医師や患者さんに対する支援の幅を広げていければと思っています。

研究者としては、やはり医療に貢献できる人材であり続けたいですね。誰かを救えるようなものをつくり出すことに、これから先も関わっていければと思います。

未来の研究者へ

さまざまなデータが蓄積されるに伴って、医療AIの領域でできることの幅も広がってきています。ぜひ今ある課題を一緒に解決し、医師や患者さんの役に立つものをつくってみませんか?

AIの領域でトップクラスの研究ができ、医療からCG、音楽、自然言語まで多様な分野の仲間と高め合える、原田・髙畑・長・椋田研究室でお待ちしています。

取材・文・写真=原田・髙畑・長・椋田研究室広報担当